まかない飯を食べさせてもらうと税金取られちゃうよ!の話

税金
飲食店で働いている時のまかない飯、働いている時の食事代がかからずに食事を摂ることができるのでとても嬉しく、そして助かる制度です。私も昔、夜に飲食店でアルバイトをしていた時は毎日お店の食事を食べさせてもらっていました。週5でアルバイトをしていたので、金額に換算すると毎月1万円程度はタダで食べさせてもらっていました。

まかない飯には所得税がかかる

30年近く前の話なので、完全に時効が過ぎているので書きました。実は私がタダで食べさせてもらっていた食事には所得税が課税されるべきものだったのです。

1年間でいくらくらいか

1食500円だったとして週5回で4週間。500円×5回×4週=1万円。1ヶ月1万円、1年間このペースで働いていたわけではありませんが1年間で約10万円くらいは食事という形で利益の提供を受けていたので、この利益の提供を受けた部分に対して所得税や住民税が課税されます。

現物給与とは

このようにお金以外の形であっても、物やサービスで提供されたものに関しては給与をもらったのと同じ扱いとなり、所得税や住民税が課税されます。これを現物給与と呼びます。

まかない飯の例の場合ですと、通常の食事代は自分で負担すべきものです。月に1万円の給与をもらい、働いているお店で500円の食事を週に5回、4週間食べて1万円を支払ったのと同じことになります。この1万円は手元には残りませんし、もらってもいないのですが1万円に対して所得税と住民税が課税されます。

給与金額は月額11万円だった場合、通常は源泉所得税(給与から引かれる税金)1,240円を引かれて108,760円が支給されますが、まかない飯分が1万円あった場合の源泉所得税の金額は11万プラス1万円の12万円を支給されたものして計算します。12万円に対する源泉所得税は1,750円。11万円から1,750円を引いた108,250円が支給されます。たかが510円ですがされど510円、1年分は6千円となり、住民税の1年分の差額は1万2千円、所得税と住民税を合計すると1万8千円の差になります。

税務調査が入って発覚して3年前までさかのぼられた場合は5万4千円を徴収されることになります。ありがたいと思っていても、当たり前だと思って何も気にせずまかない飯を食べていても、数年経ってからこんな金額を徴収されてしまう危険があるのです。税金を支払うのであれば食事ではなくお金でもらいたいですよね。

現物給与にはどのようなものがあるか

まかない飯に限らず、お金以外の形で雇用先から物をもらったり利益を提供されると現物給与の対象になってしまいます。例えばどのようなものがあるかというと。
・弁当などの食事代(残業食事代は除く)
・社宅の無償提供
・特定の従業員だけの社員旅行や慰労会
・会社から通常より低い金利でお金を借りた時

いろいろありますが主なものはこんなところだと思います。

弁当などの食事代

原則として昼食の弁当など、会社が役員や従業員に対して食事を提供をした場合は現物給与として課税されますが、次の条件を満たした場合は課税されません。役員や従業員が食事金額の半分以上を負担していて、会社が負担する金額が1ヶ月に3,500円を超えない場合は課税されません。1ヶ月の会社負担が3,500円ということは月に20日出勤の場合は1日あたり175円までしか会社は負担できないということです。

500円の仕出し弁当を毎日会社に用意してもらっている場合、1日あたり325円以上個人負担をすれば現物給与として課税されません。1日あたり300円しか負担しなかった場合、月に20日勤務だった場合、提供される弁当代は500円×20日で1万円、従業員が負担した金額は300円×20日で6千円。差額の4千円に対して所得税や住民税が課税されます。1日あたり25円負担すると25円×20日で500円負担額が増えますが現物給与として課税されないことになります。

非常に金額が細かな話になってきてしまいましたが、仕出し弁当を提供している会社は弁当代全額を給与から引いている会社がほとんどだと思うので問題ないと思います。やはり問題は飲食店が提供するまかない飯です。1人分、1月分は金額が細かいですが税務調査で指摘される場合は従業員全員分を3年前までさかのぼって徴収されることになります。小規模な飲食店であっても全員分を3年分徴収されるとかなり大きな金額になると思います。

徴収方法はまず会社が従業員分の所得税を立て替えて税務署に払い(源泉所得税)、立て替えて払った所得税を会社が本人から徴収することになります。退職した従業員分も立て替えて支払うことになるので、取りっぱぐれがかなり発生することになります。

飲食店への税務調査

他に大きな脱税行為がない場合、まかない飯など従業員への食事提供に関しては必ず話題になります。まかない飯を従業員に提供していて、その分を給与から引いている飲食店はほぼないのではないでしょうか。

まかない飯に対する税処理は非常に細かく面倒でありますが、税務調査に入られて3年分追徴課税された時のダメージはかなり大きなものになります。管理の手間も大変であることから私はまかない飯の制度はやめるべきだと思います。公私混同をせず、従業員が食べるものは自分でお金を払って食べる。従業員にとっては冷たく感じるとは思いますが、会社にとっても従業員にとっても面倒な事態を避けるためにはまかない飯制度はなくすべきです。

社宅の無償提供

社宅の無償提供も現物給与として所得税や住民税の課税対象となってしまいます。家賃10万円のマンションを無償提供された場合には給与の金額に家賃分10万円を足した金額を元に給与から引く税額(源泉所得税)の計算をします。住宅手当として10万円もらい、自分で家賃を支払うのと全く同じことになります。

社宅を現物給与にしないためには

家賃金額の半分以上を従業員から徴収すると全額が所得税や住民税の対象となりません。家賃10万円の社宅であれば、従業員から5万円以上徴収していれば問題ありません。

役員の場合は別のややこしい計算式があるのですが、豪華すぎない一般的な住宅であれば家賃の半分以上を徴収しておけば税務調査でゴタゴタもめることはないと思います。税法上はこの計算は間違いではあるのですが、税務署と喧嘩をしなければ話し合いで解決できる部分です。
一応正式な計算方法を記載しておきます。

(1)自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
(2)他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。

国税庁タックスアンサー

特定の従業員だけの社員旅行や慰労会

一部の役員や社員だけで旅行に行ったり、慰労会や忘年会などで飲食をした場合も現物給与として所得税と住民税の課税対象になってしまいます。旅行も慰労会などの飲食も原則として利益供与に当たるので現物給与として課税されます。一定の条件を満たした時だけ、例外として現物給与として課税しないよ、というのが元の考え方です。原則は大丈夫だけど例外的にダメなことがあるのではないのです。

社員旅行が現物給与にならない条件

下記の4つの要件を全て満たす必要があります。
1 旅行の期間が4泊5日以内
2 旅行参加者が全従業員の50%以上
3 会社負担額が10万円以下
4 参加しなかった人に現金支給をしないこと

慰労会や忘年会が現物給与にならな条件

原則として全員参加の場合だけ現物給与と課税されないことになっていますが、仕事の都合でやむを得ず参加できない人もいるので7割から8割程度参加していれば特に問題ありません。特定の従業員だけや役員だけに飲食をさせて特別扱いをするようなことがなければ、税務調査で問題になることは少ないです。

役員だけの慰労会は絶対にアウトですので気を付けてください。

会社から通常より低い金利でお金を借りた時

下記の利息より安い利息で会社が役員や従業員にお金を貸した場合は差額が現物給与として所得税や住民税が課税されます。
平成14年から18年 4.1%
平成19年 4.4%
平成20年 4.7%
平成21年 4.5%
平成22年から25年 4.3%
平成26年 1.9%
平成27年から28年 1.8%
平成29年 1.7%
平成30年 1.6%

役員や従業員が得をすると課税されます

上記のように金銭の受領がなくても会社から役員や従業員に対して得する行為が行われると原則として税金がかかります。会社が従業員に喜んでもらうためにした行為が思わぬ税金負担を発生させてしまうことになります。

特定の人に対しての利益供与をする場合は課税関係をしっかりと確認してからにしましょう。

役員に対しての費用は特に厳しい

税務調査時はお手盛りでどうにでもなってしまう役員に関する費用は特に厳しい目で見られ、追求されます。役員の高額な飲食代や旅費など宿泊費や交通費などは収益に直接結びつくための費用であるということを証明、説明をすることができないと現物給与として役員に所得税と住民税が課税され、会社に対しては役員賞与扱いになるので費用とならなくなるので法人税等や消費税等も課税されてしまうことになります。

会社と役員にとっては両方に課税されてしまう、非常に厳しい扱いになってしまいますが税務署にとっては両方に課税ができることと正義感を満たすことができ三重も四重もおいしく満たされる処理、処分になるのでかなり本気でいじめられます。

面倒であっても飲食代の領収証はどこの誰との何のための打ち合わせだったか、その他の領収証も後でしっかりと説明ができるように記録を残しておくべきです。前回の調査がぬるくて全く問題がなかったとしても、次回もぬるいとは限りません。面倒な人にあたると本当に税法通りに面倒なやり取りになってしまいます。そしてそんな人に当たってしまう可能性は低くはないのです。

法人間であっても個人間であっても法人と個人であってもどちらかが得をしてどちらかが損をすると得をした方に原則として税金がかかってきます。例外要件を使わないと変なところで損をしたり嫌な気持ちになってしまいます。金額が大きいことや継続的に何かをする場合はしっかりと調べるか、税理士などの専門家に相談してからがオススメです。

この記事を書いた人

山口 健一

20年以上会計事務所で勤務し、20件以上の税務調査経験があります。

これだけの経験がある私だからこそ税理士との交渉をスムーズでわかりやすいものにするお手伝いをすることができます。

税務、法務、労務など会社経営に必要な全て業務知識を網羅しており、私が可能なことは私が対応をし、専門家に依頼すべきことは適切な専門家に依頼、仲介をすることができます。