茨城県庁が紙文書とハンコによる決裁を廃止して、電子決裁システムにほぼ完全移行したとの報道がありました。
同チームによると、県庁では年間26万~27万件の決裁事務があり、昨年度の電子決裁率は11・8%にとどまった。電子決裁のシステムは以前からあったが実施率が低かったのは、「公務員特有の文書主義が原因」(担当者)という。
しかし、IT企業出身の大井川和彦知事が昨年9月に就任し、4月から電子決裁による作業効率化を高めるよう指示。その結果、7月分の電子決裁率は99・1%を達成した。残り0・9%(約200件)を分析したところ、いずれも今後は電子決裁が可能だと確認できたという。
電子決裁のメリットは、文書ファイルの検索・再利用が容易となる▽ペーパーレス化で書棚スペースを削減できる▽出張先など庁外でも決裁作業ができるため在宅勤務を進められる――などだ。
特に期待されているのが、文書保管後の書き換えができなくなり、改ざんを防げることだ
文書の電子決裁化のメリットとデメリット
文書の電子決裁化の大きなメリットは文書保管後の不正な書き換えができなくなることです。過去文書の検索や再利用をする時の効率化もかなり大きなメリットになります。記事に書かれているように出張先などから決裁作業ができるかどうかは、かなり怪しげではありますが。決裁のためだけに印鑑を押してもらいに上司のところへ行く手間や出張時には帰ってくるまで待つ手間を考えると、システムを理解することができ、正しく運用できれば効率は上がると思います。
しかし、ハンコよさらば!とのタイトルの記事になっていますが、ハンコでの決裁がなくなったことが電子決裁化メリットなのかどうかは微妙なところだと思います。
茨城県庁で働く人達の平均リテラシーが高ければ印鑑での決裁がなくなり、電子決裁になったことで仕事効率も時間効率も非常に高まっていると思います。しかし現実はどうでしょう。役所で働く人のリテラシーを想像すると、電子決裁になったことで効率が著しく落ちている可能性があると思います。
一定以上のリテラシーのある人達での運用であれば、電子決裁化により効率が上がりますが、リテラシーが一定水準に達していない人達による電子決裁化は効率が良くなるどころか壊滅的なグチャグチャ状態になってしまうと思います。
茨城県庁、イメージ的にはリテラシーが非常に低い印象なので、実態がどうなっているのか中の人に本当の状況を聞かせてもらいたいです。
現在の印鑑を使うことの意味
話は本題の印鑑の話に戻ります。現在の印鑑の使い方には大きく分けて2つの使い方あります。実印を使った押印と三文判や認印を使った押印。実印を押印する時
実印を押印する時は印鑑証明書(印鑑登録証明証)とセットで使うことになります。実印を押しても印鑑証明書の添付がなければ三文判、認印を押したのと全く変わりません。会社の実印を押印しても印鑑証明書の添付がなければ角印を押しても三文判を押しても効力は全く同じです。会社の請求書などに押印する角印にも何の意味もありません。見た目だけの問題であり印鑑証明書を添付しない時の押印は、会社実印の押印であっても意味があるものはありません。
個人の実印であっても印鑑証明書がセットでなければ三文判と全く変わりません。
印鑑を押す意味
宅急便は書留が届いた時に押す認印、三文判、シャチハタには何の意味もないはずですが、宅配業者や郵便のルールがあるので受け取った時に押印する必要があります。署名でしたら人により筆跡が違うので何かしらの意味があるのかもしれませんが、荷物受け取り時に認印や三文判を押印することに何の意味があるのかよくわかりません。役所へ提出する書類に押印する意味
税務署や年金機構や市役所に提出する書類は、ほぼ押印が義務付けられています。書類によっては印鑑証明書の添付は義務付けられていないのに会社の実印押印を義務付けられている書類もありますが、ほとんどの書類が認印や三文判、100円ショップで入手可能な適当な印鑑押印を義務付けています。宅急便や書留到着時の印鑑押印よりも、役所へ提出する書類へ押印義務の意義が全くわかりません。申告書や届出書には全て押印が必要になっています。
法人税の申告書、昔は会社の実印を押印することが義務付けられていました。2018年4月1日以降に終了する事業年度からは代表者による自署押印規定の見直しがありますが、条件がいろいろあるのでこの規定は無視して書きます。
昔は法人税申告書には会社の実印を押印することになっていましたが今は違います。代表者の認印を押すことになっています。代表者個人に責任を持たせるという意味で、会社の印鑑ではなく代表者個人の印鑑を押印するということに法律が変わりました。
かなり前から法人税申告書には会社の実印を押印してはダメなことになっていますが、未だに会社の実印押印をさせている会計事務所が多いです。法人税申告書に会社の実印を押してしまっても調査に入られてしまうわけでもなく、実害は何もありませんが未だに会社実印押印させているということは新しい法令を全く追っていないということなので、会計事務所変更の検討をした方が良い状態です。
今は印鑑を押す意味は全くない
同じ印鑑を作ることが難しかった昔は印鑑を押すことに意味がありました。押印したことが本人であるとの証明になったからです。今は陰影から簡単に低コストで全く同じ印鑑を作ることができてしまいます。三文判だけでなく、銀行印も実印も見た目が複雑であっても簡単に全く同じ印鑑が作れてしまいます。簡単に同じ印鑑が作れてしまうので昔は普通預金通帳に表示されていた銀行印がかなり前から表示されなくなっています。
税金の申告書にも届出書にもあらゆる書類に署名と印鑑が義務付けられていますが、個人も法人も印鑑証明書の添付が義務付けられていなければ実印を押印してもなんの意味もありません。
実印押印をして、印鑑証明書を添付したとしても今の技術を考えると複雑な実印の印影を完全にコピーすることは低コストで簡単であるので、実印押印と印鑑証明書添付も意味がある行為ではないと思います。しかし昔からの習慣と他に手段がないので意味のない習慣が続いてしまっています。
書類提出時に押印以外の良い手段は思いつきませんが、少なくても印鑑証明書添付をしない押印には全く意味がないので押印の習慣はすぐにでもやめるべきです。
宅急便や書留はサインでも良いのですが、まだ押印を求められます。ヨドバシカメラのヨドバシエクストリームサービス便はポストに入る物はそのままポストに投函、ポストに入らない物は手渡しになりますが押印もサインも求められません。カクヤスの配送も最近は押印もサインも求められなくなりました。
宅急便などの三文判押印は荷物が届けられたかどうかという配送業者と配達先の問題というより、荷物を捨てずに届けたかを確認するための配達業者と配達業者従業員のための押印のような気がします。意味のないこの手間を省くだけでお忙しい配達業者の人の手間が大きく変わるのではないでしょうか。
印鑑と電子決裁の関係
役所内や会社の書類については印鑑押印制度の代わりに電子決裁にすることに意味があると思います。その組織のリテラシーによっては非常に困難でコストも時間もかかってしまうと思いますが、文書保管後の書き換えがや改ざんが不可能になることは非常に大きなメリットです。しかし電子決裁システムを構築することは、コストを考えると可能な会社や組織は限られていると思います。現実的にはほとんどの零細中小企業では決裁のためのシステム導入は厳しい状態です。
コストパフォーマンスの良いICTツールを上手く使えば効率の良いシステム構築が可能ではありますが、ICTツールの選択と運用は現在の零細中企業に非常にハードルが高い状態です。システム導入が難しいのであれば、せめて印鑑押印制度はやめて必要な部分は署名だけで済ませる方向に変えていくのが時間とコストを考えると良い方向だと思います。
印鑑は必要か
法人も個人も実印制度に変わる簡単な制度は思いつきませんが、認印や三文判はなくなってしまっても全く問題ないと思います。申告書や届出書、荷物の受け取りにサインや署名で済ませる方向に進んでもらいたいですし進めるべきです。意味のない印鑑制度を続けていることで、現実は会社や保険代理店などは関係する三文判を山ほど準備して代理押印しています。代理押印に関してはバレてしまった場合は犯罪行為になりますが、あちらこちらで日常的に代理押印が行われているというのが現実です。
代理押印が横行しているということは役所でもわかっているはずです。印鑑証明書の添付は求めていないのに代表者印を押印させるという、わけのわからない書類も多々あります。
印鑑証明書と実印をセットとする制度はともかくとして、押印だけをする制度は意味がないので早急になくすべきです。