フリーランスを守る法整備は間違いなく逆効果!の話


2018年2月20日に日本経済新聞に下記の記事が掲載されました。
フリーランスに最低報酬 政府、労働法で保護検討

具体策はこれから詰めていくようなので詳細はまだ決まっていませんが、フリーランスの報酬額に最低基準額を設けるということを中心に、納品から支払いまでの期間の規制なども検討しています。

どこまで規制が入るかわかりませんが、規制を厳しくすればするほど関係法令との整合性に問題が生じ、解釈と運用が面倒になっていきます。

労働法制についてはSTORIA法律事務所のサイトに詳しく、わかりやすく書かれています。
フリーランスに最低報酬額導入との政府方針。フリーランスと発注会社側、それぞれの注意点とは

私は税法に関係する問題点を書きます。

記事になったような規制がない現時点でも支払者とフリーランスで働いている人には雇用関係があるのかないかという問題があります。

給与か報酬か業務委託費か外注費かという費用の呼び方の問題ではなく、実態がどうであるのかにより2つに分類されます。

1 給与とは雇用契約もしくはこれに準ずる契約に基づく対価。
2 報酬、業務委託費、外注費など呼び方は問わずこれら給与以外の契約の定義は請負契約、もしくはこれに準ずる契約の対価と定義されています。

フリーランスは2の報酬や業務委託費に該当します。

請負契約を結べば良いわけではなく、下記5項目を中心に実態がどうであるかで判断することになります。

項目1
1つめは代替性の有無です。

作業の内容がその人でないとできない仕事なのかどうなのか。

その人でないとできない仕事であれば給与とみなされ、その人がいない時は他の人にがすることができる仕事の場合はフリーランスとしてみなされます。

項目2
2つめは時間的な拘束の有無です。

作業時間に応じて報酬金額を決めたり、支払者から作業時間の指示や拘束を受ける場合は給与とみなされ、作業時間とは関係なく作業の成果に対して報酬金額が決まる場合はフリーランスとしてみなされます。

項目3

3つめは支払者側の指揮命令監督下にあるかどうかです。

具体的な作業内容や作業方法を支払者から指示されて行っている場合は給与とみなされ、作業内容や作業方法を自らで決めて行っている場合はフリーランスとしてみなされます。

項目4
4つめは仕事の成果に対しての責任の有無です。

仕事の成果物である完成品が不可抗力のために滅失してしまった場合でも報酬を受け取れる場合は給与とみなされ、成果物である完成品が不可抗力のためとはいえ、引き渡しすることができなかった場合に報酬を受け取れない場合はフリーランスとしてみなされます。

項目5

5つめは仕事に必要な材料や用具を支払者から供与されているかの有無です。

仕事に必要な材料や用具や費用を支払者が負担している場合は給与としてみなされ、作業者が全てを負担している場合はフリーランスとしてみなされます。

製造業や建設業であれば仕事の道具や作業着、軍手、移動時の交通費、作業をする場所の賃料、支払者の道具や機械を使った時の使用料を支払っているかどうか。

ライターやデザイナーなどの事務職であれば文房具やパソコン、プリンター、プロッター、コピー代、用紙代、作業場所の賃料を支払っているかどうか。

給与かフリーランスのどちらに該当するかいうことは、当てはまる項目の数とは関係ありません。

5項目を中心に契約内容と業務実態を見て、総合的に判断することになります。

ということになっていますが、税務署は全て給与にしたいのです。

給与にすると源泉所得税(給与から引く税金)が発生するので税金の取りっぱぐれがなくなるのです。

なので税務調査の時にこの話になるとかなり強引にフリーランスではなく給与ですね、という話に持っていこうとします。

給与と認定されてしまった場合、税金を支払うのはフリーランスの人ではなく支払者である企業です。

企業に納税義務が発生します。

給与として源泉所得税を計算して支払者である企業が税務署に所得税を納付、納付した所得税の金額をフリーランスの人から徴収することになります。

給与認定されてしまった場合は消費税不課税なので消費税も追徴課税されることになります。

税務調査でこの部分をやられると、かなり大きなダメージになります。

フリーランスの人が給与ではなく事業所得で確定申告をしていても税務署には関係ありません。

住所により管轄も違いますし、部門も違うのでその後フリーランスの人が自分の申告をどうするかはケースバイケース。

支払者から源泉所得税を徴収された場合には確定申告時に支払った税金と二重に払うことになるので、修正申告をせざるを得ない場合が多いと思います。

厳格な税務調査を受けた場合、おそらく半分以上のフリーランスの人が給与認定されてしまうと思います。

主題ではありませんが給与かフリーランスかの部分は支払者、作業者共に重要な問題ですのでこれを機に可能な範囲内で契約や仕事方法の見直しをするべきだと思います。

税務調査でこの部分の話になってしまった場合は徹底的に、ボコボコにされてしまうことが多いので要注意です。

税務署としては過去の判決の例から、とても取りやすい部分なんです。

現状でもこのようにアバウトでグレーな部分の多い給与とフリーランスの部分。

フリーランスへの報酬に最低報酬を設けたり、さらに労働法の一部を取り入れるような方向に話が進んだ場合、今までの給与とフリーランスの税法解釈が破綻します。

最低報酬額を設けるところまでは問題ないと思いますが、フリーランスに権利の部分が増える方向の法整備をしてしまうと整合が取れなくなってしまいます。

派遣法改正時は給与という枠の中での話だったので大きく法改正をすることができましたが、フリーランスの権利拡大は税法との整合性を保つために大きな改正はないと思います。

別の問題としてフリーランスの権利を法で大きくすればするほど企業は使いにくくなると思います。

最低報酬額設定という金額の問題もありますが、締日から支払日までの日数制限や契約解除の制限などの規制が入ると大多数のフリーランスの人を使う意味がなくなってしまいます。

仕事ができるフリーランスの人は最低報酬額とは縁がない人達です。

対象となってくるのは企業がお金をあまり払いたくないと思っている、仕事があまりできないフリーランスの人達。

仕事内容に対してそれだけの価値しかないと判断しての低報酬なのだと思います。

対象となる人達は割合としてかなり大きいと思います。

この人達に対して最低報酬額が設定されてしまうと、普通に考えると使いたくないですし使う頻度が落ちると思います。

どうせ使うなら報酬がもう少し高くてもできる人へ発注という方向にシフトしていくはずです。

結局、厚生労働省が守ろうと思った人達が低報酬どころか仕事がなくなってしまい、窮地に陥ってしまうことになります。

税法との整合性がどうなるのか、困ったことになっている人達がさらに困ってしまうことを進めていくのかを注目しています。

この記事を書いた人

山口 健一

20年以上会計事務所で勤務し、20件以上の税務調査経験があります。

これだけの経験がある私だからこそ税理士との交渉をスムーズでわかりやすいものにするお手伝いをすることができます。

税務、法務、労務など会社経営に必要な全て業務知識を網羅しており、私が可能なことは私が対応をし、専門家に依頼すべきことは適切な専門家に依頼、仲介をすることができます。