会社を作ると税金が安くなるというのは本当か?の話

税金
7月31日は所得税予定納税の納期限です。個人事業主は確定申告時の所得税額が15万円以上の場合は7月末と11月末に所得税額の3分の1の金額を納付することになっています。

確定申告時の所得税額が21万円だった場合は7月と11月にそれぞれ3分の1である7万円ずつを納付することになります。

利益に対する所得税がいくらくらいか

非常に大雑把な計算ですが個人事業主をしていて利益が1,400万円の場合、所得税額は約300万円になります。7月末までに納付する必要がある予定納税額は100万円です。住民税が所得税とは別に137万円くらいかかります。所得税と住民税の合計額は約437万円。

利益が1,850万円だった場合の所得税額は約450万円、予定納税額は150万円です。住民税は約180万円です。所得税と住民税の合計額は約635万円。これくらいの金額になってくると安いのか高いのがわけがわからなくなってきます。

会社を設立すると税金は安くなるか

会社を設立して、利益分をそのまま給与で支払うことで給与所得控除という制度の恩恵を受けることができます。最近給与所得控除に上限220万円までという制限ができ、以前と比べると節税額が少なくなりましたが確実に税額を減らすことができます。

1,400万円の場合

個人の場合
・所得税 300万円
・住民税 137万円
・事業税 59万円
・合計税額 496万円

会社設立して給与として1,400万円支給した場合
・所得税 228万円
・住民税 115万円
・合計税額 343万円

節税額の差額は153万円になります。

1,850万円の場合

個人の場合
・所得税 455万円
・住民税 180万円
・事業税 81万円
・合計税額 716万円

会社設立して給与として1,850万円支給した場合
・所得税 380万円
・住民税 160万円
・合計税額 540万円

節税額の差額は176万円になります。

900万円から1,800万円までは所得税率が同じなので1,400万円の場合も1,850万円の場合も所得税と住民税の節税額はほぼ同じです。会社設立により税率5%の事業税がなくなることで節税効果はかなり大きいです。

節税額の差額は1,400万円の場合で約150万円、1,850万円の場合は約175万円になります。

社会保険を考慮しても得なのか

個人事業主の場合の社会保険料

個人事業主の場合の社会保険は国民健康保険と国民年金です。国民健康保険の料率や上限額は市町村によって違います。私が住んでいる横浜市の場合、個人事業主をしている場合の上限額は下記の通りです。

・国民健康保険料 93万円
・国民年金 約20万円
・社会保険合計額 約113万円

会社の場合の社会保険料

会社を設立すると社長1人の会社であっても社会保険に加入する義務があります。以前から会社は社会保険に加入することは義務であったのですが、実際は加入しないでも大丈夫な状態でした。

しかし2015年からは国民年金保険料徴収の強化と共に社会保険未加入事業者に対して非常に厳しい対応がスタートしました。
厚生年金保険適用促進策
平成27年度予算案における国民年金保険料収納対策等について

厚生年金保険適用促進策は2017年までしか表記されていませんが今も全事業所を加入させるために厳しい対応が続いています。会社を設立した場合、社会保険加入をまぬがれるのは100%無理です。税務署から給与に関する資料を取り寄せ、それを元に問い合わせが何度も何度もきます。ここ数年で状況が全く変わっているので社会保険加入については絶対に甘く見てはいけません。

社会保険料はいくらなのか

という状況なので会社設立と社会保険加入はセットになります。1,400万円でも1,850万円でも社会保険である健康保険(介護保険料を含む)、厚生年金共に上限の同じ金額です。健康保険料が月額約8万円、厚生年金月額約5.6万円、合計月額保険料は13.6万円、合計年額保険料は約164万円です。

個人の場合の社会保険料の合計額が113万円なので51万円くらい社会保険料の支出がおおくなりますが、節税額と差し引きすると100万円くらい得することになります、と思ったら大間違いなのです。

社会保険料は個人負担と会社負担がほぼ半分ずつです。自分で作った会社なので会社負担分も自分で支払うのと同じことになります。会社負担と個人負担の社会保険料の年額はなんと328万円になります。

会社設立は得なのか?

利益が1,850万円あった場合、個人の税金と保険料の金額は下記の通りです。
・税額 716万円
・社会保険料 113万円
・合計額 829万円

会社を設立して給与として1,850万円を支払った場合は下記の通りです。
・税額 540万円
・社会保険料 328万円
・合計額 868万円

税金と社会保険料を足したら会社設立の方が高くなってしまいました。会社設立をすると消費税を払わないで済む期間があるので、消費税も含めた比較になるとケースバイケースになってしまいますが、会社設立をすることで無条件に得をするという状態ではなくなってしまいました。

昔は会社を設立しても社会保険に加入しないでもどうにかなっていたので、個人事業をしていて利益が多くなってきたら会社を設立することが無条件で得な状態だったのですが、会社を設立すると社会保険加入が厳しく義務付けられてしまっている今は税金と社会保険料の出費のことだけを考えると得にならないことも多くなっています。

給与を払うべき人がどの程度いるかによっても税額が大きく変わってきます。所得税の負担を逃れるために安易に会社を設立してしまうと、上記のように出費が多くなってしまうことがあります。会社設立の際は信用できる専門家に念入りに試算してもらってからにしないと、取り返しのつかないことになってしまいます。

この記事を書いた人

山口 健一

20年以上会計事務所で勤務し、20件以上の税務調査経験があります。

これだけの経験がある私だからこそ税理士との交渉をスムーズでわかりやすいものにするお手伝いをすることができます。

税務、法務、労務など会社経営に必要な全て業務知識を網羅しており、私が可能なことは私が対応をし、専門家に依頼すべきことは適切な専門家に依頼、仲介をすることができます。