退職金はいくらまで会社の費用にすることができるのか?の話

退職金
昨日書いた退職金に関する話の続きです。昨日は退職金をもらう人が給与と比べると税金がものすごく安くなるという話を書きました。

3千万円を給与とした支払った場合。
・所得税 830万円
・住民税 175万円
・合計税額 1,005万円
30年勤務で3千万円の退職金を支払った場合。
・所得税 111万円
・住民税 75万円
・合計税額 186万円

退職金での節税!の話

このように30年間勤務した場合に給与として3千万円を支給された場合は所得税と住民税合わせて1,005万円、退職金として3千万円を支給された場合は所得税と住民税を合わせて186万円です。

税金の差額は800万円以上です。社会保険も計算に入れると差額は1千万円を超えてきます。

もらう側にとってお得な退職金ですが、支払う会社にとってのメリットはあるのでしょうか。

会社は退職金はいくらまで費用にすることができるのか

会社が費用にすることができる退職金の金額は従業員(使用人)と役員とでは大きく違います。

従業員、役員共にそれぞれの退職金規程の通りに支払うことになりますが、役員への退職金は家族会社の場合は特にお手盛りで利益操作のために支給することがあるので厳しく制限されています。

従業員(使用人)への退職金

基本的に退職時の基本給に支給率をかけて算出するのが一般的な方法です。

支給率は勤続年数が長くなれば長くなるほど率が高くなり、退職金の金額が多くなる仕組みとなっています。

支給率に関しては自由です。創業者である社長の家族だけに高い支給率で退職金を払うことはできません。

表のような形で勤続年数に対する支給率を定め、基本給に支給率を掛けた金額を支払うことになります。

会社都合の退職の場合は満額、自己都合の退職の場合は5割から8割程度の率を掛けて支給することを定めている会社が多くなっています。

この部分も任意で自由ですが、全ての従業員に対して規定通りに退職金を支給する必要があります。

従業員への退職金支給率

会社によって様々ですが、だいたい下記の範囲内で決めている会社が多いです。
・勤続年数5年 1.5倍から3倍
・勤続年数10年 6倍から12倍
・勤続年数15年 10倍から22倍
・勤続年数20年 15倍から30倍
・勤続年数30年 26倍から48倍
・勤続年数40年 30倍から50倍

退職金規程を作る時はキリのよい勤続年数の支給率を先に決め、それから間の勤続年数の支給率を決めていくのがやりやすいと思います。

退職金規程は表のような形で全ての勤続年数に対する支給率を定める必要があります。

従業員(使用人)に対する退職金の上限

上限は特にありません。

退職金規程は全従業員が対処になるので、支給率を高めにして高額の退職金を支払うことにしてしまうと家族従業員以外にも高額の退職金を支払うことになります。

このことから従業員の退職金規程で支給率を異常な高率にする会社はないので、税務調査で問題になることはほぼありません。

退職金規程が定められておらず、お手盛りで適当に退職金を支給していた場合は退職金ではなく賞与として扱われてしまうので注意が必要です。

会社は退職金でも賞与でも費用計上できますが、受け取った従業員にとっては税額が大きく変わってきますので大ダメージを受けてしまいます。

退職金支給をする場合は必ず退職金規程を作り、退職金規定通りに支給してください。

役員への退職金

役員への退職金は退職時の月額に功績倍率を掛け、さらに在任年数を掛けて算出します。

功績倍率は役員退職金慰労規定により会社ごとに任意で決めることができる役職ごとの倍率です。

功績倍率

・代表取締役 3倍
・専務取締役 2.8倍
・常務取締役 2.6倍
・取締役 2.4倍

これがそれぞれの役職に対する功績倍率の上限と考えて良い数字です。

特に代表取締役の3倍との倍率、数十年前の判例を元に今でも功績倍率の上限として使われている倍率であり、税務調査の時も3倍というのが1つの基準として扱われ続けています。

3倍であれば絶対に大丈夫というわけではありませんが、3倍を超えた場合は越えた部分については退職金として費用計上することができず、役員賞与として処理をすることになります。

役員賞与として処理をするということは会社の費用にならないということです。

役員の具体的な退職金計算方法

会社創業者である社長が30年勤務して退職、退職時の報酬月額が150万円だった場合の退職金計算方法です。

150万円(退職時の報酬月額)×30年(在任年数)×3.0(功績倍率)=1億3,500万円。1億3,500万円までなら会社は退職金として費用処理をすることができます。

役員退職慰労金規定

ここで大きな問題があります。1億3,500万円内だったら自由に退職金の額を決めることができるわけではないのです。

従業員の退職金が退職金規程通りに支払う必要があるのと同じで、役員の退職金も役員退職慰労金規定の通りに支払う必要があります。

役員退職慰労金規定の内容は任意で自由です。

しかし税務調査があった時に退職時の報酬月額×在任年数×功績倍率が費用計上できる上限として指摘される可能性がある状況なので、役員退職慰労金規定の内容は「退職時の報酬月額×在任年数×功績倍率」との内容で作成するのが無難で安全です。

退職時の報酬月額×在任年数×功績倍率を元に役員退職慰労金規定を作成することに異を唱えているサイトが多々あり、書かれていることもわからなくはないのですが、それはあくまで綺麗事であり、自分の中の正義を通して何年も裁判で税当局とやり合う覚悟を決めてからやるべきだと思います。

現時点では退職時の報酬月額×在任年数×功績倍率を元に役員退職慰労金規定を作成するのが正解です。

役員退職慰労金規定内に記載する功績倍率は代表取締役3倍、専務取締役2.8倍、常務取締役2.6倍、取締役2.4倍を上限に作成しておき、役員の退職が近付いた時に現実的な功績倍率に置き換えて、役員退職慰労金規定を作り直すのが良いと思います。

役員が退職するたびに役員退職慰労金規定を作り直すと税当局と揉めに揉めますので、作り直しは最初の1回だけ、作り直したら10年程度は同じ内容で運用すべきです。

役員への退職金支給

先ほどの例のように役員退職慰労金規定通りに1億3,500万円の退職金を支払うことができる会社は問題ないですが、簡単に支払うことのできる金額ではないので分割払いになってしまうことが多く、長期間会社へお金を貸しっぱなしになってしまうことになります。

貸しているお金は相続財産になります。現金とは違い、全額回収できるかどうかわからない相続財産。かなり質が悪く、無駄な相続税を発生させてしまう要素になります。

退職金支給直前に役員報酬の変更、特に高額にした場合は退職金の上限を引き上げるためとみなされることがあるので役員報酬を動かして調整することは避けるのが無難です。

事前にターゲットとする退職金額を決め、その対象金額から逆算して功績倍率を決め、役員退職慰労金規定を作成するのが良いと思います。

役員報酬額は業績次第のなりゆきが自然な形が良いと思います。

役員報酬額がなりゆきになると退職金額もなりゆきになってしまいますが、退職する予定を決めておけば在任年数はほぼ確定させることができ、報酬額が増減したとしても3倍になったり半分になったりなど、極端にな変動はないでしょうから問題になることは少ないはずです。

先の例に書いた、会社創業者である社長が30年勤務して退職、報酬月額が150万円だった場合、役員退職慰労金規定に代表取締役の功績倍率は3.0倍、退職慰労金の計算方法は退職時の報酬月額×在任年数×功績倍率で作成されていた場合は1億3,500万円の退職金を支給する必要があります。

こんなにはいらない、7千万円程度が良いと思っていた場合は役員退職慰労金規定で代表取締役の功績倍率は2.5倍にしておき、退職前に月額報酬を100万円に下げることで100万円×30年×2.5倍=7,500万円。

ほぼターゲットに近い退職金額にすることができます。

ケースバイケースではありますが功績倍率は2.2倍から2.5倍程度にしておくと、相続税のことも含めて問題の少ない状況になることが多いです。

退職直前に役員報酬を下げることは問題ありませんが、上げる場合は退職金限度額を上げることが目的と指摘される可能性が高いので、不自然な上げたかは避けるべきです。

下げる分には全く問題ありません。

代表取締役の功績倍率を下げることにはデメリットがあります。

それは専務取締役以下の功績倍率も下げる必要があるということです。

代表取締役と同時に、もしくは近い内に他の役員が退職する予定の場合はそのことも踏まえて役員退職慰労金規定の功績倍率を決める必要があります。

退職金は会社にとっても受け取る個人にとっても税金面で非常に大きなメリットがあります。

このメリットを最大限受けるために、専門家に相談をしながらしっかりとした事前準備と計画を練りましょう。

退職金に関してはまだ書きたいことがあるので、また書きます。

この記事を書いた人

山口 健一

20年以上会計事務所で勤務し、20件以上の税務調査経験があります。

これだけの経験がある私だからこそ税理士との交渉をスムーズでわかりやすいものにするお手伝いをすることができます。

税務、法務、労務など会社経営に必要な全て業務知識を網羅しており、私が可能なことは私が対応をし、専門家に依頼すべきことは適切な専門家に依頼、仲介をすることができます。